迷想録

迷ってる

凛野ミキ「光」の人間賛歌

多感な時期に触れたゲイジュツ作品って私の中で特別なポジションにカテゴライズされておりまして、たまにふと思い返しては大事にしてる宝石箱の中のオタカラをこっそり覗いてるような温かい気持ちになってしまう。
これって全人類共通の懐古ってやつですよね?

私の場合は子供の頃からもっぱら漫画ばかり読んでいたもので、やはり当時熱中して読んでいた作品には特別な思い入れがあるんですが、そんなほっこりした思い出の中で、ただ一つ、痛烈な極彩色を放ち続けている作品がある。
それが漫画家 凛野ミキ(現在は厘のミキに改名)の「光」だ。

 

光

 

以下あらすじ

星を示す痣を持つ者だけが「時の止まった時間」の中で動くことができる。 痣の持ち主には惑星と星座がいる。 惑星は星座を支配する。 星座は惑星を守護する特殊能力を持つ。 星座は能力とともに宿命の記憶を得る。その過酷さに一部の星座は精神に異常を来している。 理由を問わず、星座の死とともにその能力は惑星のものとなる。 星の痣を持つ者が触れた対象の周辺のみ止まっていた時間が動く。

 

 

 

 

シンプルな表紙で、一見どんな漫画か分からず「男女の三角関係モノかな?」なぞと思い表紙買いした方ももしかしたら居るんじゃなかろうか。

 

この作品、急に自分たち以外の世界中の時が止まるという超常現象に見舞われ 異能を有する事となった男女の群像モノSFなんですが、「時が止まる」とか「異能」とかはこの作品の主題を生かす只のエッセンスに過ぎない。

「光」で重きを置き描かれているのは、人間の「人間らしさ」だ。

それは時に偽善であり、エゴである。

作中の登場人物はエゴの為に人を殺め、他人を欺く。この作品の本質は精神的なグロテスクさにある。

 

 

光の魅力については書いても書き足らないので割愛するが、このキャラクターだけ紹介させて欲しい。全国数千万人の「光」ファンが愛してやまない、主人公のクラスメイトであり作中のヒロイン的立場でもある、恩田秋子さんである。

 

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主人公・上嶋阿高に片思いをしており、時の静止した不可解な世界で主人公たちと結束することとなる恩田さん。

クラスにはあまり馴染めず、大人しい存在の女子である。

 

 

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 主人公から可愛いと言われた前髪をcm単位で記録する、恋する乙女。

 

 

 

 

彼女もまた、異常な環境下における全能感からか、これまでの抑圧してきた感情の殻を破り、社会性を逸脱した剥き出しのエゴを発揮して読者を慄かせることとなる。

 

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お弁当を一緒に食べてくれるクラスメイトに横柄になる秋子

 

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全能感を醸し出す秋子

 

 

 

恩田さんの様子がおかしくなる中、

時間が静止している際 異能により起こった災害により、街の住人達に避難勧告が出され、学校で避難生活を送ることになる主人公とその仲間たち。

(※能力者が一人でも死ぬと静止した時間は再び動き出す)

 

そんな中、仲間の女子、杉浦さんが不安から主人公に助けを求め縋り付く。

 

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そしてそれを遠くから見ていた秋子。

 

 

 

 

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もはやヒロインの顔ではない

 

ここから嫉妬に狂った恩田さんにより、杉浦さんを殺す為に 罪のない人々まで巻き込んだ画策が始まるのだった。

 

 

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人は此れを「秋子祭り」と呼ぶ。

 

恩田秋子さんの真価は秋子祭りで発揮される。社会性を捨て利己主義のみで生きる人間の惨さ。ご需要を感じ取った方は是非「光」をお買い求め下さいませ。

 

 

 

あと

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 割とブラックな笑いどころがあるのも魅力。

 

 

 

 

 

 

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単行本のカラーページのイラストも絶妙に不穏だったり気持ち悪くて最高。

 

 

「光」は連載当時、人気が芳しくなかったのか出版社公式サイトで「光ネガティブキャンペーン」と銘打って一般ブログからのレビューを募ったりして知名度の向上を図っていたが、残念ながら打ち切りになった惜しまれる作品だ。

単行本は全四巻で、最終回はすべてを放り出して終わってしまう。最終回、作中でとある人物が大声で夜空に向かい「ろくなもんじゃねえー!!!!!!」と叫んでいる描写があるが、凛野先生もそんな気持ちだったのだろうか。

 

あの当時Twitterが波及していれば私は確実に光の宣伝をしていたし、私が宣伝するまでもなくもっと人気が出ていたかもしれない。あるいは連載雑誌がマイナーな女性向け雑誌ではなく読者層の幅広い少年誌か青年誌であったならば、打ち切りになっていなかったかもしれない。

あらゆる可能性を考えて惜しまれる気持ちになる私のバイブルである。

 

 

 

(※この記事描くにあたって読み返してたら割と肉体的にもグロテスクな描写があったので苦手な方はすみません。)